アズュリアズの旅

〜熱夢の女王〜妖魔の戯れ〜


「熱夢の女王」(早川文庫)

「おお、チャズ、あなたが憎い…」

「惑乱の公子」にて、アズュラーンと箒星の娘ドゥニゼルとの間に生まれた姫君。
ドゥニゼルへのアズュラーンの愛は、光の巫女に見合う純粋無垢とも言えるもの。失うときの喪失感を闇の王すら免れず、という、妖魔としては普通考えられぬエピソードからこの物語は始まります。アズュラーンは自らの分身としてのみ主人公アズュリアズを造形したに過ぎず、そして母たる処女ドゥニゼルとても産むや死んだも同然、彼女は胎内で自らが実のところ顧みられたことがあろうかと。

「愛」

それとは何ぞや。

「生」

それとは何ぞや。


ドルーヒム・ヴァナーシュタから地上へと彼女を連れ出した、叔父ならぬ叔父「狂気」なるチャズとの恋路、父であるアズュラーンに裂かれて、狂気そのものと化したチャズを追い…。自らの分身として世に送るために造り出した、彼女にとっては父ならぬ父に孝養を尽くすありさまが、美しくも凄惨であることに胸を締めつけられます。
初めて、自らの存在をいとおしんでくれたチャズすら、傍らにいない。自らは半ば玩具として、この世に放り出されたに等しいこと。愛を受けた実感を持てず、いやその愛ゆえ深く傷ついた娘は妖魔ゆえ泣かない。

「ヴァズドルーは泣かぬものぞ」

泣けないのです。それは、アズュラーンとて同じこと。

妖魔としての永遠の生、そして魔力は、生まれながらに得たもの、彼女には何の意味も持たない。この世で出来ぬことはない。何もかもしてしまった。その空しさから、天罰というものが彼女を解放します。
自らの王国、そして記憶を失った妖魔娘の選んだものは「輪廻転生」。

「ただ生きること」を得るために、永生を捨てる。その彼女の選択のあり方に、著者の人としての温かみを感じます。ファンタジーとしてだけではなく、「生きる」ということについて何らかの疑問・空しさを持っている人々への強いメッセージとしても読める物語です。


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